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29:借ります 11/2 1:34 ID:???
「マサウミさんまで・・・・」
薄日が差し込む夜明けの中、耳障りな放送を聴いて立ち止まり、橋本は無意識に呟いた。
今年清水将から大きく出番を奪ったものの、捕手としては勝っていないことを自覚していた。
自分は打撃の捕手。肩や捕球で劣るならせめて投手の信頼を彼以上のものにしたかった。
だが、それも叶わぬまま清水将は逝ってしまった。心の中に大きな穴が開いた気分だった。
(これからどうするかな・・・・)
先刻より長きに渡ってバッテリーを組んできた小野の姿を探しているが、一向に見つからない。
まず誰より信頼できる彼と合流したかった。彼の同期の福浦か大塚と合流できるかもしれない。
元よりこの馬鹿げた殺し合いに参加するつもりなど毛頭無い。
(そうでない奴もいるがな・・・・)
出発して小一時間ほど経った頃に声をかけてきた金澤の濁った瞳を思い出す。
奴は既に人を殺したと言った。自慢するかのように。それが我慢ならなかった。
自分の経験と志を言葉にして叩きつけたが、逆効果だったようで金澤の瞳には会った時とは
明らかに違う紅い殺意の炎が渦巻いていた。次会ったら問答無用で襲い掛かってくるだろう。
(自分じゃ説得力ないかもな)
こんな時にこそ説得力を持たせることのできる捕手に、自分はずっとなりたかったのだ・・・・
いや、まだ遅くはない。そのためにも生き残ろう。マリーンズ投手陣は自分が支えてみせる。
兎にも角にも小野と合流するのが先決だ。いつかは見つかると信じて、橋本は歩み始めた。
だがその数十分後に顔を合わせたのは、最も出会いたくなかった相手であった。
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ir ver 1.0 beta2 (03/07/17)